今年の暑さは半端じゃないと、
毎年毎年言われ続けているけれど、
猛暑日が広まった一昨年よりも、
ゲリラ豪雨が多かったが、
終盤で帳尻併せのように凄まじく暑くなった昨年よりも、
今年は確かに記録的に暑い夏なのだそうで。
いつまでも大雨が去らずにいた、長っ尻だった梅雨や、
その直前の、いつまでもコートを仕舞えなかった、
肌寒かった春なぞどこへやら。
小学生が夏休みに入る“海の日”を境に始まったのが、
夏日・真夏日の連続なんて可愛らしいもんじゃあない、
いきなり猛暑日が連日続くという、とんでもない夏の日々。
亜熱帯気候の襲来を皮切りに、
地獄のような毎日がまだ七月の内から始まって。
冗談抜きに人死にも出たほどの酷暑の中、
それでも 若さの滾(たぎ)りや漲(みなぎ)りは抑えが利かぬか、
高速料金の一律化の定着もあってのこと、
行楽地には人出があふれ返っており。
「でもなあ、近場の経済にはあんまりいい感触は出てないって話でよ。」
そやって出掛けるのだって、これまでにもお出掛けはしてたってクチが、
電車使わず車を使うようになっただけの話だし。
オリンピックやW杯需要と3Dばやりから、
薄型・大型・新型テレビが売れたよに、
エアコンや最新鋭の多機能扇風機も売れてるらしいけど。
そっちも競うように廉売している大型量販店での話でな。
商店街なんかは相変わらず閑古鳥が鳴いてるらしくて。
唯一の定客だったお年寄りのお馴染みさんも、
この暑さじゃあ出て来れないって。
「やっぱ、玄関前での送迎バスとか無料宅配とか、
そういうサービスを何とか賄えないかが、
高齢化が進む地方経済活性化の鍵なんだろうよな。」
「……一体どこの誰と、そんな小難しい話をしてやがる。」
「ん〜? ××新聞の小学生新聞デスクの人。」
今日びの小学生は、お前以外でもそういう小難しい話についてけてるのか?と、
怪訝そうに眉を寄せた葉柱さんへ、
ぱたくりと携帯を畳みつつ、さぁあと曖昧なお返事をした、
金髪小柄な子悪魔様だったが。
“何も読者として取材されてたワケじゃねぇってな。”
小学生にでもこういう答えが導き出せるような、
そんな危機感が理解出来るような紙面が理想なんじゃね?と、
そういうご教授をして差し上げてたところだったのだけれども。
ややこしいのでと省略したまでのこと…というから、
相変わらずにおっかない小学生の妖一くんが。
暇を見てのそんなお電話かけていたのは、
潮風の芳しさも懐かしい、例年の夏場の合宿地、
葉柱さんチ所有の別邸がある、海辺の浜辺の一角であり。
「危ねぇから一人で浜に来ちゃあいかんと、
あれほど言っといただろうがよ。」
「何だよ、海には入ってねぇぞ。
ミーティングが終わりそうだったから先に来てただけじゃんか。」
何もバカンスに来ている訳じゃあない。
午前中の涼しい頃合いに、
砂浜の波打ち際をランニングしたり、サーキットトレーニングをこなしたり、
夕刻の風が涼しくなる頃合いには、
ロードワークにとご町内をランニングして回ったり。
一日中 熱が逃げない都心の真ん中よりかは、
過ごしやすいこちら様にて、
秋季リーグ目指しての入念なトレーニング合宿を張るのが、
高校生時代からのもはや恒例と化している彼らで有り。
ちなみに、葉柱が卒業した後の賊徒学園高校のカメレオンズへは、
高原近くにある春合宿用の別荘を合宿所として提供しており、
面倒見のいいところもまた健在なご様子。
“まあそれは今更だけどもよ。”
親分肌なのも代々の遺伝が為せる技なのか。
当主が代々、東京都議を務めて来たという家系の坊っちゃんで、
とはいえ、族を仕切っていたのはそんな親の七光なんざ全く関係ない話。
兄上の斗影もやはり舎弟を山ほど持っていたが、
そっちにしても、
本人の義侠心の強さに惚れた男衆が集まっただけの話だそうだし、
“ちゃらちゃらと真っ赤なスポーツカー乗り回すよか、
よっぽど芯のしっかりした話だってのにな。”
いつの時代のお坊っちゃん像ですか、そりゃ。(苦笑)
まま、言いたいことはよく判る。
大型バイクを乗り回す不良だなんて…だとか、
どうせ親の威光があってのお目こぼしから、
取り締まられることもないんだろうとか。
遠巻きにしつつ、だからこそよく知りもしない連中から、
勝手にそんな風に見られてもいたもんだから。
時には、
―― そんな要領がいい奴じゃねぇぞ、
自分の拳で一等取りたくてしょうがねぇ、
ただのガキだ ガキ……と
大声で触れ回りたくなるような、
そんな不器用なお兄さんだから大好きになった葉柱のお兄さんと。
だっていうのに、こっちもこっちで相変わらず、
可愛げのない口利きでもって、
ああだこうだと丁々発止の言い合い交わしてたりする坊やであり。
「午後練は何時からだ?」
「4時からだ。」
「買い出しは?」
「一美がマネージャーたち乗っけて出掛けたよ。」
一番クソ暑い昼間の時間帯は、主に午睡と休憩と雑用をこなすこととなっており。
買い出しは当番制で、それ以外の雑事のうち、
女子マネたちが洗濯物を取り込んだり、
夕ご飯への下準備に取り掛かるのを手伝うのも各々の勝手。
『今年は手際いい子ばっかなんで、ツン以外は出る幕ないらしいがな。』
実家が居酒屋でそこの手伝いもこなしているという、
ツンさんほどの手練れでもないと、
却って邪魔になってるらしいというのが笑える話で。
当然(?)葉柱も邪魔してもなんだからと、
午後はとっとと休憩に走るのが日課。
たいがいは、ミーティングの途中から姿を消す誰かさんを追って、
こうして浜まで出てくる毎日なのであり。
「せっかく海に来てんだしよ、泳いどかなきゃ勿体ねぇじゃんか。」
それに俺、陽に焼くと真っ赤になっから出来るだけ水ん中にいたいしと、
やっと追っかけて来た保護者殿だとあって、
しびれ切らしたぞ この野郎と言わんばかりの瞬発力にて、
ぱぱぱっと…水着の上へ羽織っていた
パーカーやハーフパンツやらを脱ぎ散らかす。
「まあ待て待て。」
いきなり入っちゃあ体によくないと、
坊やが落としたあれこれを、さっきまでそこにいたデッキチェアへと拾い上げ。
肩やら肘やら手首やら、
ぐりんぐりんと回してみと、坊やへも勧める黒髪のお兄さんであり。
そのまま駆け出したかったところ、
軽々と捕まっての“ほれ やってみそ”と、
まるで軽妙なコントみたいに運ばれたので。
せっかくかわいい頬ふくらませ、むむうとむくれる妖一くんだったりし。
最近少しほど お顔が細おもてへと面変わりを始めつつあって、
それに合わせて目許も微妙に切れ長になって来たもんだから。
金茶の双眸、ちろりんと眇めると、
色んな意味から威力を増しても来はしたものの。
一向に動じない上に、
「んん? どした?」
「〜〜〜〜〜何でもねぇ。///////////」
かいがら骨の陰も濃く、がっつりと雄々しい背中とか、
隆と張った胸板の肉づきも凛々しい、いかにも男臭い裸身、
それは無造作にTシャツの下から剥き出しにされちゃあ、
ついつい見ほれて言葉もなくなる。
それは何も坊やに限ったことじゃあないらしく、
「〜〜〜〜でしょ?」
「うんうん、カッコいいわよねぇvv」
交通の便が悪い故の穴場で、よって人は少ない方だが、
別に“プライベートビーチ”ではないので、
浜辺には他の…少し先の民宿なんぞに逗留中の遊泳客も来る。
合宿が始まって何日かすると、
どういう口コミからか、するすると女性客の姿が増えるから不思議であり。
『まあ、そういうのは悪い傾向じゃあないのだけれど。』
マネージャーと主務の両方のトップを張ってるも同然のメグさんが、
そりゃあ手際よく仕込むので、
あっと言う間に気の利くマネージャー軍団になってしまう女子の人らも、
ほとんどがああいう形で寄って来て、
お世話したいですと志望して入った顔触ればかり。
普通はむさいばっかな男には寄って来ないもんなんだけどもねと、
肩をすくめてたメグさんで、
“そうだよな。
それじゃあ華がないからってんで、
ハーフタイムのチアだの採用しだしたんだしよ。”
バスケやアメフトのチアリーダーのみならず、
モーターショーやF1のレースクィーンしかり、
パチンコ番組のコンパニオンの、ビキニのお姉さんたちしかり。(おいおい)
やるにしても見るにしても男性の需要が主というジャンルならではな、
そりゃあ判りやすい形での、華やかさを添える演出なのであり。
ただ、欧米の社交界では、
プレイヤーたちの男らしさにご婦人方が酔ってのこと、
夫を口説いてスポンサーになって下さるというパターンも、
世の東西を問わずの昔っから、少なくはないらしいので。
“…普通一般のお姉さんが、群がる時代になったってことなんだろな。”
全くの全然 嬉しくない話として、
体育会系の男連中に集団で乱暴されたという話も結構聞いたりする昨今。
あんまり気安く近づいたら危ない性分のバカもいるからご用心…というのは、だが、
こちらの皆様に限っては、
鬼より恐ろしいマドンナと子悪魔様がいるので、
絶対に心配の要らない 別世界の話なのだけれど。(まったくだ)
「〜〜〜〜〜。」
「なんだ? もう体もほぐれたろうよ。」
ほれと手を延べ、おいでと小さな手を引いてやりかかれば、
プイとそっぽを向いてしまう坊や。
だがだが、まだまだか細い腕を振り回すでなく、
それどころか…ちょっぴり尖ったお耳の先が、ほのかに赤くなったのは、
子供扱いへと怒ってるからではないらしく。
「どしたよ?」
「…………鈍感。」
ピンと来ないほうが悪いと言いたいか、
だがまあ、傾いていた機嫌は収まったらしい。
何かのお仕置きででもあるかのように、
出されたまんまの手のひらへ、ぺちりと自分の手を乗っけた坊やであり。
まだ他の連中は来ていないのに、黄色い声が上がったの、
あれは確実にルイが目当てのお姉さんたちだなと、
こっちはちゃんと嗅ぎ取ったのにね。
ざざんという波の音のほうが余程に魅力か、
いつもの素のお顔なまんまのお兄さんなのが。
ホッとしつつも…ちょっぴり気掛かり。
いっそ だらしなくやに下がったら叱れるのにね
いやいや、それだとこっちは分が悪いかな?
第一、俺は別にあのそのえっと。///////
呼んだときに
ちゃちゃっと来ねぇのは困るし、だから。///////
自覚がないのはどっちやら。
熱を帯びてた素足にかかった、波のぬるさと丁度同んなじ。
好きだけど、それって…それって?
ちうもしたけど、その次って……なぁに?
こんなカッコいいルイだから悪いと、
えいっと背中へおぶさって。
不意をつかれてのこと、
たたらを踏んだそのまま、揃って浅瀬へ転げた二人。
何しやがるかと睨まれても怖くないもん。
それよりも
ねえ、冷めないから本物だよねと
波打ち際に座り込んだまんま、
そうと問いたげに見上げて来る、少ぉし不安げな幼いお顔へ、
「〜〜〜〜〜〜。/////////」
あーうーと、年甲斐もなく真っ赤になった誰かさんだったのは、
そのまま率直素直な答えだと、受け取っていいと思われますよ?と、
どこかから聞こえたカモメのお声が、後押ししてくれた盛夏の一景。
〜Fine〜 10.08.11.
*いやまったく暑い日が続きますよねということで。
進展なさ過ぎのお二人へ、
たまには真摯に見つめ合ってもらいましたvv
とはいえ、坊やもまだまだお子様ですんで、
「俺もルイみたいにがっつりした身体になんねえかなぁ」
とかいう、妙な爆弾発言したりもしますよ。(笑)
「だってウチの父ちゃん、あれで腹とか筋肉割れてんしよ。」
「そっか、細身だけど筋肉質なのか。」
「おお。だからさ、俺も大人んなったら…。」
「う〜ん、多少はその方が頼もしいが…。」
そういう体になって女性の目も集めて、所謂 意趣返しがしたいんだろかと、
メグさん辺りが深読みするが、
「……違げぇよ。/////////」
あのね? そうしたら、ルイの方を向く女子の人がいなくなるじゃんかと、
可愛いことを言ってくれたら私が萌えますvv(こらー)
めーるふぉーむvv 

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